情報公開審査会は機能しているか?No2   文責m。j

情報開示を拒否するための口実となった,審査会答申

 平成18年1月26日付けで、諮問第85事案(簗川に関する洪水実績聞き取り調査結果表)の意見陳述の録取書が送付されました。
録取書
(口語で記述されているため読みとりにくい部分を修正しています)
 意見陳述にあたり、情報公開審査会のあり方についていくつか問題提起をしました。これらの問題について審査委員がどのように判断し、どのような裁定を下すのか、結果を見守りたいと思います。

「審査会答申が情報を開示しないことの口実に利用されている」問題

 第6回簗川流域懇談会では、先に諮問された第84号事案(河川整備計画策定にかかるアンケート用紙のうち問30の回答全て)について以下のやりとりが懇談会委員と河川課の間でありました。
第6回流域懇談会議事録要旨(録音テープより)

◎懇談会委員の発言
 アンケートの質問の30に105人の方がそれぞれご意見を書かれているようですけれども、その内容はこの流域懇談会にはただ一つも示されていません。流域の皆さんそれぞれがどんなふうに簗川を感じてらっしゃるのか、どんなことを望んでいるのかという(問30の)内容が示されていないので、(県の公表の仕方は)参考資料として不十分ではないでしょうか。そういうものも自分達の考え方の背景にしたいと思いますので、是非ここの部分についても出してもらいたいと思います。

◎岩手県河川課の回答
 アンケート調査ですが、問30というのがありましてそれぞれの皆さんに直筆で思いを書いていただくという項目がありました。そこについてですね、情報の開示請求を受けました。で、情報公開審査会という第3者機関にも諮りました。
 そうしたところがですね、我々はアンケート調査を行うときに文面を公開するというお断りをしていなかったというのが一つあります。それから、それぞれの個人の思い、考え方が字で出てきますので、そういうことなもんですから非開示とさせていただきました。
 この考え方は情報公開審査会の弁護士さん等で構成する審査会ですけれど、そこからも非開示が妥当であろうという意見をいただいたところであります。ですからそこの問30に関しては、その情報については公表しないという事に我々はしております。

 問30のコメントの内容の公開を希望する懇談会委員に対し、「直筆であるため個人が特定される」という食い違った理由で、河川課は公開を拒否しています。

84号時案の答申の判断理由は
 「個人の意見、考えなどの内心がその個人を識別できるまで詳しく記載されたり、個人の経験や生活状況などのプライバシーに関する内容が記載されているものであり、その回答内容を既開示情報及び市販されている住宅地図や地方公共団体のホームページによる情報などと照合することにより特定の個人が識別され、又は識別される可能性があると認められる」
 ですので、既開示情報と照合できない方法(ワープロで文面を打ち直す等)であれば内容の公開は可能なはずです。

 その点について審査委員長に問い合わせたところ、
本件事案の審査の中で我々もそれはそれとして考えていきますが、あくまでも、この陳述というのは、今申し上げましたけれども85号事案の陳述ですので、それに限定した形でやりませんと、争点が拡散してしまうんですね。」
との理由で、この問題についての説明を受けることができませんでした。

このままでは審査会の存在意義に疑問が・・・
 情報公開条例とは、県民が行政資料の入手を容易にするための条例であり、情報公開審査会は、その手続きが正当に行われているかをチェックする機関であるはずです。
情報公開条例第1条の主旨
「地方自治の本旨にのっとり県民の知る権利を尊重し、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による県政の監視及び参加の充実に資することを目的とする。」
第3章 岩手県情報公開審査会 (設置等)

 23条 第18条第1項の規定による諮問に応じ不服申立てについて調査審議するため、岩手県情報公開審査会(以下「審査会」という。)を置く。
 
 第84号事案のように、情報公開審査会の答申がかえって情報を公開しないことの口実となってしまうようなことがあってはならないと私は考えます。
 この問題を放置し、何ら手を打たないというのであれば、情報公開審査会の存在意義は無く、単なる行政の追認機関、税金のムダというほかないでしょう。
 審査会にはなにとぞ強い態度で県河川課に指導を願いたいものです。


「個人情報なら全て非開示」現行の条例は正しいのだろうか
 この度の事案の非開示理由は「地区名欄及びコメント欄(個人名記載部分を除く)の非開示部分については、地区名及び洪水名等他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報である」です。
 つまり、個人情報であればその内容にかかわらず全て非開示となるという判断がなされているのです。
 現行の岩手県情報公開条例によれば、この考えは間違っているとはいえません。
岩手県情報公開条例第7条
 実施機関( 公安委員会及び警察本部長を除く。) は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

(2) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
 
 しかし、このことが全ての都道府県の条例に当てはまるわけではなく、所によっては個人情報であっても、その個人の権利利益を害しないと判断できる場合は公開可能となっています。
大阪府情報公開条例第9条
 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならない。(1 )個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの(以下「個人識別情報」という。)のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの

 この度の諮問のように、個人情報だというだけで非開示となってしまう現行の岩手県条例は常識的に見て正しいといえるでしょうか。

当諮問のみなぜ非開示にするのか?河川課の矛盾
 
この度の諮問に先立って、簗川流域懇談会では「稗貫川・中津川・簗川動植物等情報聞き取り調査結果」が配布されています。
 この資料は稗貫川・中津川・簗川流域に住む方々からの聞き取り調査をもとに作成されており、情報収集の方法は当諮問事案と全く同じです。
 内容を見れば、個人名などは伏せられているものの、コメントに伏せ字などは全くありません。
 そればかりか、職業名や用水路の管理組合名などが明記されており、一般住居者から聴取した当諮問よりもはるかに個人の特定が可能です。
 例えば、簗川渇水情報聞き取り調査結果表では、それぞれの用水路の管理責任者に問い合わせれば、コメントが誰のものか簡単に判明するでしょうし、「稗貫川・中津川・簗川動植物等情報聞き取り調査結果」では、JA大迫支店や山岳博物館など発言者の職業から回答者の特定は容易にできそうです。
 
 それではなぜ渇水や生態系の調査ではコメントは全面公開され、洪水調査の場合は部分開示となるのでしょうか?

ウソまでついて河川課(簗川ダム事務局)が公開したがらない理由
 当該開示請求の背景を読んでいただければわかりますが、河川課はウソをついてまでも、この資料の公開を拒んでいます。
 その理由は、この資料だけが唯一、簗川流域の洪水規模・地点を示すものであり、洪水被害箇所・規模の特定が可能になれば「流域全体に洪水被害があるためダムが必要」という、これまでの説明が成り立たなくなるためだと考えられます。

公開する事による個人利益の損失は?
 念のためにお断りしておきますが、この資料が公開されることによる、個人の権利利益を害する恐れは全くないといえます。
 なぜならば、聞き取り調査という手法自体が事前に収集目的を告知し情報提供の承諾を得るという手続きを踏んでおり、収集の時点で情報の活用に対する本人の同意が確認されているものだからです。
 「稗貫川・中津川・簗川動植物等情報聞き取り調査結果」を懇談会で配布したことにより、河川課に苦情が寄せられたという話は聞いていませんし、私自身、以前聞き取り調査を行い懇談会に配布しましたが、回答者は概ね好意的で主旨を理解していただけました。
(*聞き取り調査では、懇談会に配布する必要上、作成者名を懇談会委員にしています。)
情報公開審査会は正しい判断を
 この度の諮問は情報公開審査会の「質」を問うものだと私は考えます。
 現行の条例の問題をそのままにして、情報の陰徳を望む河川課の片棒を(もう一度!?)かつぐのか、それとも今後の岩手県行政に禍根を残さぬように条例の不備を改正し、県民の納得できる判断を下すのか、期待を持って今後を見守りたいと思います。
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