川辺川ダムの行方:国への収用申請取り下げ勧告 反対派「白紙へあと一歩」 /熊本

 ◇推進首長は「残念」
 「申請を取り下げなければ却下する」――。29日、県収用委員会(塚本侃会長)が国交省に対し、川辺川ダム建設に伴う漁業権などの収用申請を取り下げる よう勧告した。ダム反対派は「巨大ダム計画の白紙化まであと一歩だ」と歓喜に包まれた。一方、勧告によってますます遠ざかる本体着工に、建設を容認、推進 してきた地元首長らは苦々しい表情を浮かべた。
 「今日の判断を国民の財産と受け止めたい。違法な事業であれば、国交省が進めるものであっても止めることができる」。閉会後、権利者代理人の板井優弁護 士は傍聴に集まったダム反対派の市民ら約30人を前に語り掛けた。「必ず申請を取り下げさせるよう全国の支持者の力を結束して国交省へ訴えよう」
 傍聴に訪れた利水訴訟原告団長の農家、茂吉隆典さん=相良村=も「いつまでもダムに固執してはだめ。ダムはいらん、という私たち農家の声が収用委にも通じたんだと思う。あと一歩だ」と話した。
 一方、ダム建設で水没予定の五木村の西村久徳村長は「きわめて残念だ。収用委には、40年近くほんろうされてきた村の実情や水没住民の苦悩をくんでほしかった。国や県にはこれまで通り、ダム本体建設や関連事業の推進を求めていく」とコメントした。
 川辺川土地改良事業組合長の園田耕輔・錦町長も「大変残念。これまで長時間かけ協議し、ようやく農家アンケートが終わり、農家の意向が示されたところ。今後、関係市町村で十分協議し、農家の意向を裏切らないよう対応していく」との談話を出した。
 また、潮谷義子知事は「今後、国交省がどのような判断をされるか見極める必要がある。利水事業についても、このような前提の中で、農水省や市町村など関係者と対応を協議する必要がある」としている。【阿部周一】

8月30日朝刊
(毎日新聞) - 8月30日17時46分更新

川辺川ダム問題 収用申請取り下げ勧告

国に熊本県委 建設見直し諭も
 川辺川ダム(熊本県相良村)建設で、国土交通告が申請していた漁業権と土地の収用を審理する熊本県収用委員会(塚本侃会長)は二十九日、新利水計画の概要がまとまらないことを理由に国に申請を取り下げるよう勧告した。九月二十二日までの回答がない場合は同月二十六日の収用委で却下裁決に入る。




 発表から四十年目の川辺川ダム建設計画は、強制収用の段階でつまずく異例の事態となった。国は新たなダム計画の練り直しを迫られ、建設の遅れは避けられない。ダム建設の見直し論議も起きそうだ。
 国交告は「あとわずかで利水事業の新計画概要が明らかにできる」として収用委に審理の継続を求めていたが、策定へのスケジュールさえ示せていなかった。
 塚本会長は「審理を進められない状況が長期化しているのは問題。ダム事業計画が確定してから必要な手続きをするべきである」と収用申請の取り下げを勧告。
 国交省は治水の面からもダムは必要との立場を崩しておらず、今後の対応を「(利水計画を作る)農水告と相談して決める」としている。
 川辺川ダムをめぐっては、水没予定地で買収できない土地があったことや、川辺川の漁業権を持つ球磨川漁協が国の補償案を拒否したため、二〇〇一年十二月、国交省が収用裁決を申請。しかし、〇三年五月にダム利水事業の行政訴訟で国側が敗訴し、利水計画が白紙化、国や熊本県は新利水計画の策定を余儀なくされた。その後の策定作業は難航して国側は新計画を提出できず、収用委は審理を中断しながら状況を見守ってきた。


川辺川ダム
 国土交通省が熊本県相良村で川辺川をせき止めて造る治水や利水、発電などの多目的ダム。1966年に発表され、総貯水量1億3300万立方bで、完成すれば九州最大級となる。総事業費2650億円で、国交省は最終的に3300億円に膨らむとしている。水没する同県五木村の住民のための代替住宅地建設などの事業は既に行われている。


中止相次ぐダム事業
 2005年四月までで、川辺川ダムと同じ国土交通告が直接整備する直轄ダム(水資源機構分も含む)で中止したダムは、戸倉ダム(群馬県)など二十四ある。ただ、構想や計画の段階で、必要性が薄れたとして中止されたダムがほとんどだ。
 川辺川ダムは、既に水没する住民の代替住宅の整備など本格的な工事に入った。こうした本格的な工事の段階になってから中止したのはこれまで矢作川河口堰(愛知県)しかなく、「中止となれば異例」 (国交首)となる。
 また現在、直轄ダムのうち八ツ場ダム(群馬県)など十八の多目的ダム計画については、縮小や中止の方向が打ち出されている。いずれも需要が伸びると予想し、費用を出すとしていた自治体が、人口減少などで需要が伸びず撤退などを打ち出したことが最大の要因だ。
 川辺川は発電、農業用水、治水の多目的ダムで、手間取っている農業用水の利水計画見直しのためにダム計画の変更や中止に追い込まれれば、初のケースという。


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