淀川水系流域委員会提言から2年
ダムの行方住民翻弄
朝日新聞05/2/27
 琵琶湖を含む淀川水系の河川整備は、どうあるべきか。国土交通省近畿地方整備局が設置した学経験験者の集まり「淀川水系流域委員会」(委員長=芦田和男 京都大学名誉教授)が、4年間の任期を終えた。2年前、「ダムは原則として建設しない」という提言を打ち出し、注目された。2月からは新委員に入れ替わった。水系で計画中の五つのダム事業は、中止されるのか。住民の意見はどう反映されるのか。公共事業の 進め方をめぐり、模索が続く。
          
全住民が昨年移転、更地広がる建設予定地
 かつてあった38世帯の家は取り壊され、残っているのは石垣や基礎だけになった。田んぼもなくなり、更地のままだ。

 合併して三重県伊賀市になった旧青山町の川上地区。独立行政法人・水資源機構が川上ダムを完成させると、一帯は水没してしまう。本体工事はまだだが、すでに付け替え道路の準備などに約400億円が投じられた。
 旧建設省が38年前、ダムの予備調査を開始。長年反対を続けた陸民たちがようやく移転交渉に応じ、引っ越しを始めたのは7年前だ。昨年5月に全世帯の移転が終わったところだ。だが、環境問題への関心の高まりや財政難から、全国的にダム事業が見直される時期とちょうど重なった。

 8年前に河川法が改正され、今後の河川衰内容を明らかにする河川整備計画を作る際、盛来の治水、利水に加え、環境の視点が考慮されるようになった。自治体の首長と学識経験者、住民の意見を聴くことも盛れ込まれた。

 淀川水系では近畿地方整備局が4年前、淀川水系流域委員会を設置。河川の専門家だけでなく生態学者や法律家、環境保護団体のメンバーら五十数人が参加した。解放があらかじめ用意した原案にOKを出す従来型の諮問機関ではなく、白紙の状態から川のあり方を論じ、新しい河川整備の考え方を打ち出した。

 川とダムで洪水に対応する「河道主義」から流域全体で治水を考える「流域主義」へ、水需要の予測が大きくなるのに合わせて水資源開発をするやり方からへ水需要を一定の範囲で管理・抑制する方向へ転換しよう。

 議論が白熱したのはダム事業だ。委員会が「ダムは自然に与える影響が大きく、原則として建設しない」と提言したのを受け、5ダムの本体工事は凍結された。国直轄の大戸川(大津市)、天ヶ瀬ダム再開発(京都府宇治市)、余野川(大阪府箕面市)と、水資源機構の丹生(鞍賛県余呉町)と川上の五つだ。

 提言は地元に波紋を広げた。ダムから水道水の供給を受ける自治体などが事業からの撤退を表明した例があれば、地元自治体が「建設推進」を求めているダムもある。

 川上地区長は「なぜもっと早く反対を言ってくれなかつたのか。我々は苦渋の決断をした。先祖の墓を堀り返し、骨を拾い、見知らぬ土地に移ってきた。いまさら……」と翻弄されることを憤る。そして、「もしダムを造らないなら、川上に帰りたい」と訴える。

 委員会は今年1月に出した意見書で、5ダムそれぞれの目的や効果、ダム以外の方法などを検討した。だが、事業の継続か中止かという個別の判断は避けた。近畿地方整備局が改めて方針を示せば、意見を述べるという考えだ。整備局部長は「ダムを造ると決めたのは私たち旧建設省だ、一方、環境保全が重要だという委員会の指摘もよく分かる。必要な調査や関係者との話し合いに力を注いでおり、早急に方針を出したい」と話している。

川上ダムの建設予定地。
農業などで暮らしていた住民は、全員引っ越した。
問われる撤退ルール
 淀川水系流域委員会でのダム論議が投げかけているのは、公共事業の意思決定の問題だ。

 河川法改正で、河川整備計画作りに住民や専門家の声を聞くことが盛り込まれ、各地に流域委員会ができた。背景には、無駄な公共事業への批判がある。しかし、その運営方法は国交省などに任され、声をどう生かすかは手探りの状態だ。

 淀川委員会はこの4年間に、大小の会合や現地視察など400回近い会合を重ねた。ダム事業など賛否が対立する問題では、委員会の提案で近畿地方整備局が住民対話集会を開いたりした。国交省内部には「委員会が独り歩きレ、整備計画を作るかのように思われた面もある」という批判もある。だが、学習と議論を積み重ねたことで、委員会と整備席との間に一定の共通認識も生まれた。

 二月から、新メンバーで委員会が再発足した。新しい委員長は「整備局が委員会の意見を尊重するというのが共通の理解だ」と話す。今後、ダム事業の中止も具体的に視野に入ってきそうだ。すでに投入した費用をどう扱うのか。川上ダムのように、移転を終えた住民の声をどう反映させるのか。公共事業の「撤退のルール」についても、議論が迫られそうだ。
         淀川水系で計画されている五つのダム事業

淀川流域委員会でのダムについての意見書





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