第9回簗川流域懇談会報告          
平成19年2年14日
県民学習会にて
八幡 つぐこ

 2007年1月25日に第9回築川流域懇談会が開催された。昨年4月24日に第8回が開催されてから9ケ月ぶりの再開である。中断した理由は明らかではないが、9回流域懇談会開催は基本高水流量の精査後に開催するとの連絡が8月にあった。答申後からこれまでの経緯についてもふれておきたい。

答申後の経過
 一昨年の12月に大規模事業評価専門委員会が事業の見直し継続は妥当との答申を出した。付帯意見の基本高水流量の精査は評価専門委員会時の発言「4人程度の専門家による精査」から大きく後退し、結局、答申を出した前評価専門委員会委員長の首藤伸夫氏と簗川流域懇談会会長の堺茂樹氏の指導を受け、岩手県の河川課が精査を行った。当初は昨年の6月終了をめどに精査を行うという回答だったが、昨年12月に精査が終了したので流域懇談会に報告するとの連絡があった。
http://yanagawanet.hp.infoseek.co.jp/houkoku/2006/060425mousiire/kaitou.html


県自身による精査結果は?
 第9回流域懇談会に向けて簗川の基本高水精査についてが届いた。「流域住民の理解をさらに得るよう精査を行う」はずであった精査の内容には、基本高水流量780m/sが妥当とするために算出手法を操作したのではとの疑惑があった。

 懇談会当日、精査を指導した専門家が同席する中で、特に降雨が河川にどれ<らい流れ出るかを示す流出率が高めになるように、明らかに棄却するべき数値を並べた上、計算手法も不統一で操作されていることを指摘した。二人の専門家は手法の不統一を認めた。河川課が専門家の指導に従わなかったともいえるが、あくまでもダム計画を誘導しようとする河川課のあせりを感じている。

 内容について少し報告するが、洪水到達時間を検討するのに葛西橋でのピーク流量が100m/sを越える16洪水を抽出して計算しているが、短時間雨量と流量の関係では洪水到達時間は「9時間」の頻度が高<なっていた。


 しかし築川の特性を考えれば9時間は長すぎるとして、300m/sを越える2つの洪水(1990年9月と2002年7月)の到達時間の平均から4時間という数値をはじき出している。


ここでも河川砂防技術基準の重心法に則していれば、時間数はもっと伸びることになる。

(解説)
左図は2002年7月降雨のハイエトグラフ(降雨上)とハイドログラフ(流量下)の時間経過を示したものだが、洪水到達時間を計算するにおいては、両グラフの重心を念頭に置き、重心と重心の時間の2倍の数値を採用するのが、通常の考え方である。
ところが、岩手県が行った計算では、図のように重心より後の時間から計算しており、恣意的に1.5時間という短い数値になっている。
また、この時間は3時間手前の降雨ピークとも合致していない。

 そもそもの要因は、築川・根田茂川に流出しない地点での雨量観測所のデータが使われることにある。「他県の天気予報で、自分の地域の天気を予報するようなもの」と言われる方もいるように、今回、専門家も「どのような検討を重ねても正解にはいたらず、これが尤もらしいという雑駁なものにしかならない」ことを認めている。

(解説)
 簗川流域内には2ヶ所の降雨観測所があるが、それらの降雨資料を隠蔽して精査していた可能性がある。このことは、懇談会における首藤氏の発言から推測される。

 この3ページの図を見ていただきたいんですけれども、赤い線で括っているところが、いわゆる簗川の流域です。ですから、この赤い線で囲った中に降った雨が、簗川を流れてくるということですね。ですから、簗川流域に降った雨を計るためには、簗川流域の中に、雨量観測所が適切に配置されてないと困る。ところが、ここはどうも、他の簗川流域から尾根を隔てて別のところにある雨量観測所のデータしか使えない。そうなると、雨が少ないとですね、尾根一つ超えて降り方が違うっていうことは、これはもうあるだろうと。

 また、懇談会資料では、中村・簗場の観測所名が記載されていないが、後日行われた大規模事業評価専門委員会において配布された資料(下表)には記載があり、隠蔽工作に失敗したためやむを得ず記載したものと思われる。


 観測地点がかけ離れている雨量データよりも、約40年分ある小屋野観測点の流量データを用い、不足分は他のデータで補足して流量を求めるのが適切ではないかとの提案は流域の委員からも歓迎された。

 今回の精査報告書で一番悪質だったのは、洪水到達時間の算出では16洪水の平均値9時間では長すぎるからと2つの洪水の平均を採用しながら、流出係数(降った雨が全部川に流出した場合で1とする)の算出では本来棄却されるべき1を越える4洪水(流出係数1.75や1.26とか)を含めた16洪水の平均値「0.83」を採用していることである。

(解説)
 流出率とは、まとまった降雨のうち、河川に流出する降雨(残りは地中などに貯留する)の割合を示すため、全降雨分1以上が流出することはあり得ない。
 ところが、県の精査では流出係数1を超える降雨が4つあり、あきらかに洪水到達時間を短く見込んだことの弊害が出ている。

 洪水到達時間が27時間とか25時間などとありえない数字が平然と登場しているのだが、9時間でも長すぎるという自らの論理に反することを、そ知らぬ顔でしているとしかいいようがない。洪水到達時間を求めるのは2つの洪水を使い、流出係数を算定する場合には16洪水を使うなど、流域懇談会委員がこれらの数字の持つ意味を理解できないだろうと考えてのことなら許されない。前出の2つの洪水の平均の流出係数は0.68と低い値になり、この係数を使った基本高水流量はかなり下回るからである。

  今回の検討結果の中に、「参考」として扱われていたものに、『昭和39年から58年までの小屋野地点の流量データを用い、小屋野地点と葛西横地点の流量の相関式から葛西橋地点の流量を求め、昭和39年から平成17年までの42年間(河川改修工事中のH8年からH9年のデータを規<40年分)の葛西橋地点の年最大流量を用いて、簗川の計画規模1/100確立に相当する流量を流量確立により求めた・・・結果は1/100確率流量は310〜370m/s』と記述してあるが、これこそ簗川の実態にあっているものであり、私達が求めている手法ではないか。今回出された精査報告については、データの使い方や手法にも問題があるのでやり直しを求めたい。



懇談会意見のとりまとめについて
 また、流域懇談会としての意見書をまとめるために全委員から当面20〜30年間における河川整備を行うにあたっての要望及び意見等の聞き取りが12月に行われた。流域懇談会委員の意見の内容は、治水安全度および基本高水流量については「100年確率/780m/sまたはそれ以上」を選んだ方は11人(県の計画通り100年確率は6人、それ以上の安全度は3人)。「土地利用にあわせた治水安全度」をもとめた方は5人、「その他」は3人。(回答者数19/20人)

 整備施設については岩手県が示した計画通りに「ダム+河川改修案が望ましい」と回答したのは12人。「ダムの形態を変えて欲しい」が3人。「ダム以外」は1人。委員長を除いての回答とするならばダムについて解答しない方が3人となる。19人中7人(約37%)が岩手県のダム建設計画を良としていないことになる。委員の大半は河川課の裁量で選出され、公募が3人(1人はダムを要望)と少ないが、無回答はダムを選択することに抵抗があり、他の設備を選んだと見て良いと思う。

 第9回流域懇談会議題には整備計画についての意見交換となっていたが、意見交換を行わずに突然「簗川河川整備に係わる意見書(案)」が委員長から配布された。「5分で読み、意見があればどうぞ」と急速決議しようとした。運営手順として承服できないので、再度時間をとることを求めた。複数の賛同者発言もあって、その日には決議とならなかった。議題にもしていない「意見書の取りまとめ」を急にしようとしたのかは、9日に大規模事業評価専門委員会が開催され簗川ダム事業について審議が行われる予定だからと思われる。

 意見書(案)に対する加筆修正を提出し、対立する意見については両論を併記するように求め、私の意見を提起した。どのような扱いになるのかは不明であるが、最後まで力を尽<したいと思っている。指導、支援、傍聴とたくさんのなかまに支えられてきたことにあらためて感謝を申し上げたい。今後とも力をお貸し<ださるようお願いいたします。







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