文責者m.jによる簗川ダム研究
 堤防があっても考慮されない
治水経済調査マニュアルの問題点

十分な流下能力の備わった堤防なのに
 簗川の下流左岸堤防は、0〜800m区間全体にわたりダム計画780トン水位を上回っています。
 堤防高を純粋に流下能力としてみた場合、ダムは必要ないということです。

 ところが、現況河川の想定氾濫区域では、ダムがない場合広域にわたり氾濫が生じることになっています。
 「洪水は堤防を越えないのに氾濫が生じる」という矛盾した氾濫想定がなされているのです。



堤防があっても無いものとして計算する「治水経済調査マニュアル」の問題点
 上図の想定氾濫区域は、100年に1度の洪水が発生した場合に必ずこれくらい氾濫するというものではなく、治水対策による効果を数字として表すために、便宜上の最大被害を表したものです。
 もっと簡単に言えば、ダムの効果を計算するために架空の水害を想定したということです。
      
 洪水による被害額を算定するためには、堤防が機能しなくなる地点(破堤地点や越水地点)を想定する必要がある。しかしながら、堤防は歴史的治水対策の産物であり、堤体内の構成材料を特定することが回想であるため、相対的・定性的な堤防の信頼度評価はなし得たとしても、絶対的な信頼度評価を行うことは現実的には不可能に近い。従って、洪水に対する破堤地点は、決定論的に決めることができないので、破堤地点を想定せざるを得ない。
          治水経済調査マニュアル前文「治水経済調査の基本的な考え方」

 破堤をする地点は、上述したように防御対象氾濫原毎にシステムとして安全度を評価することとしているので、防御対象氾濫原毎に被害が最も大きくなる地点において破堤が生じることとする。      
           前文「治水経済調査における被害等の基本的な考え方」
治水経済調査マニュアル(案)H12/5(全92ページ3.69 MB)

 単なる便益計算の目安に過ぎないこの氾濫区域が、ハザードマップに使用され簗川ダムの説明にも使用されていることは非常に問題です。
ハザードマップを検証するのページ


堤防がほとんど評価されない流下能力の計算手法
 堤防の強度を過信するべきでないというのは、それはそれとして正しい判断であるといえますが、過小評価しすぎるのもまた考えものです。

   
(4)無害流量の評価
  対象河道の各断面について、堤防をスライドダウンし(図−2.3)、その天端高から計画の余裕高を引いた高さをH1として、その流下能力Q1をH−Q式から算定する。また、堤防位置における場内地盤高か河道の高水敷高のいずれか高い方(破堤敷高となる標高)をH0として(図−2.4)、それに相当する流下能力Q0をH−Q式から算定する。
  さらに、Q1について、河道計画において、堤防の安全を確保する上で計画されている低水護岸、高水護岸および漏水対策について、これらが未整備の場合には、各々について適切に割引いた流量Q1'を算定する。
  割引流量Q1'とQ0のいずれか大きい方を当該断面の最小流下能力とする。この最小流下能力を縦断方向に整理し、流下能力図(図-2.5)を作成する。
 この流下能力図の各ブロックの最小流下能力をもって各ブロックの無害流量とする。


   一連の事業として経済評価することが適切な時点にまでさかのぼった評価を行う場合に、その時点の河道についても同様の方法によることとするが、未改修時点の堤防はその高さに応じた流量を安全(かつ確実)に流下できるとは想定しづらいので、H0に相当する流下能力Q0を当該断面の無害流量として近似してもよい。(図−2.4)

                               「2章 氾濫原の特徴分析 P21」



結果としてダム建設の口実になっている
 簗川の場合、堤防があるのは下流左岸だけですが、全国的には1河川に何カ所も堤防があるものもあり、マニュアルでは堤防1つにつき一箇所破堤を認めているため実際よりも高額な被害想定になりやすくなっています。
 その問題点について詳しく研究しているページを見つけました。参考までに一読を。
治水経済調査マニュアルを読み解く



良いとこ取りの簗川ダム計画
 それでは、簗川ダム計画がマニュアルの手法を忠実に則っているかといえば、それもまた違うようです。
 マニュアルには、上流で氾濫が起きると想定した場合、氾濫による流量損失分を下流の想定に考慮することになっていますが、これについては全く守られていません。
 2.氾濫シミュレーション実施にあたっての留意点

 氾濫現象を出来るだけ忠実に捉え、被害最大となる氾濫状況を解析するにあたって、考慮すべき事項は以下の通りである。

 ●流下能力不足箇所からの氾濫
   上流部において、流量が最大流下能力以上となった箇所からは越水(溢水)氾濫が生じる。

 ●氾濫による流量低減
   越水(溢水)氾濫が生じる場合には、下流への流量が氾濫に応じて低減する。
   また、氾濫した流量が河川に復する場合についても、できるだけそれを考える。
                                「3章 氾濫シミュレーション P26」

 

ダム計画を見直すつもりのない岩手県河川課
 河川課は大規模事業評価専門委員会「簗川ダム事業」に審議の際「専門家による委員会を設けて基本高水を見直してはどうか」「現況河川の想定氾濫区域でのB/Cを出してほしい」という2つの要望を受け付けませんでした。
 県税をできるだけ有効に活用し、最も効果の高い治水対策を話し合おうという場に対し、情報提供や協力をしないということは、明らかに越権です。
 この2つの注文の1つでも行った場合、より有効な治水の形が見え、ダム計画の見直しは必然となるため、やろうとしないのです。
 このような行政に、私たちの税金の使い道を委ねていいのでしょうか。

 ここまで明白になった簗川ダムの不必要。河川課もいつまでもしがらみにとらわれていないで、いつかは決断しなければいけないときが来るでしょう。傷が深くならないよう、できるだけ早くそうなることを望みます。
 



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