文責m。j
ダム計画と実測資料の大きな隔たり

 以前大きすぎる基本高水流量780m3/sのページで発表した流量と雨量の関係図を、その後入手した降雨資料を含め新たに作成しました。
 作成にあたり、昭和61年~平成2年降雨に関しては国土交通省(旧建設省)観測の区界雨量を入れて、あらためて計算し直しました。
S61/8 S62/8 S63/8 H1/9/5 H1/9/9 H2/9/20
従前雨量
(簗川ダム計画)
117.7o 153.2o 125.5o 96.5o 76.2o 105.0o
再計算雨量
(含む区界)
115.4o 165.1o 111.8o 95.4o 73.4o 130.4o
                降雨後との詳細は降雨資料一覧を参照のこと
 ダム計画書には、門馬雨量で矛盾の生じた計算数値を区界雨量で修正した事例があるので、区界雨量を含めることに支障はなく、むしろ算出平均雨量の精度は高くなると判断しました。

                                      平成9年度全体計画書より

 また、前回作成以後の、今年(平成16年)の降雨資料も含めました。昭和59年からの実測流量のある平均雨量100mm以上の降雨は全て今回の作成図に含まれます。


実測降雨における雨量と流量の関係図

  降雨番号は下の表に対応。赤い点はダム計画における超過確率年ごとの雨量と流量



−関係図からの考察−

<その1> 
 まず最初に目に付くのはここ20年の間に流量350m3/sを超える降雨は一つもなかったということでしょう。最大は台風6号I(平成14年)の336m3/sです。この時の記事には「1959年頃に築堤された簗川堤防が、台風6号以前には浸食の経験がない(岩手日報)」とありますので、実質的には現在までの45年間に一度も350m3/sを超えたことがないと判断しても良いかもしれません。

<その2>
 簗川ダム計画ラインに達している(超えている)のは、H2/9降雨EとH1/9/9降雨Dの2つだけです。この2つに共通するのは、共に前期降雨量が大きいこと、ダム計画の流出解析に使用されたことです。(H2/9降雨Eの前期降雨)(H1/9/9降雨Dの前期降雨
<専門用語> 前期降雨
流出解析
 ダム計画策定時にたまたま雨量の割に流量の大きな降雨が続いたということになり、これが簗川ダム計画を過大にする要因になっているようです。
 流出解析の際、前期降雨の要素は飽和雨量・流出率などの係数として組み込まれますが、簗川ダム計画ではこの点が非常にいい加減で、まるで考慮しないのと同様の扱いでした。
内容の伴わない流出解析のページ(作成中)
 つまり、特異な2降雨を除き、ダム計画レベルに達している降雨は1つもないことになります。


−実測と一致しない超過確率年−

 上図の赤い点は各レベルごとの超過確率年を示します。例えば、左下の1/2と記された赤点は、2年に1度起こる可能性のある2日間雨量(86mm)と流量(87m3/s)に対応します。右上の最上部の赤点は超過確率年1/100の簗川ダム計画です。
 ダム計画が正しいとするならば、超過確率年1/20の降雨であったIは455m3/sのピーク時流量を観測されるはずですが、実測は120も下回っています。
超過確率年ごとの雨量と流量
超過確率年 1/2 1/5 1/10 1/20 1/30 1/50 1/80 1/100 1/150 1/200
2日雨量 86 118 140 162 174 189 203 210 222 231
日雨量 71 96 113 129 138 150 160 165 174 180
流量 87 203 324 455 535 634 730 780

 降雨ごとの超過確率年を表に表しました。
No 流域平均
雨量48h
o(A)
流域平均
雨量24h
o(B)
B/A 超過確率
(A)
(1/年)
超過確率
(B)
(1/年)
基準点
ピーク
流量m3/s
超過確率
(C)
(1/年)
A<B C<A C<B
1 S61/8/4 115.4 109.6 0.95 1/5 1/10 80 1/2以下
2 S62/8/16 165.1 150.2 0.91 1/20 1/50 176 1/2
3 S63/8/29 111.8 62.0 0.55 1/5 1/2以下 71 1/2以下
4 H1/9/5 95.4 93.7 0.98 1/3 1/5 85 1/2以下
5 H1/9/9 73.4 66.8 0.91 1/2以下 1/2以下 120 1/2
6 H2/9/20 130.4 121.3 0.93 1/7 1/20 335 1/10
7 H10/8/28 135.5 74.6 0.55 1/10 1/2 155 1/2
8 H12/7/18 88.7 87.9 0.99 1/2 1/3 25.0 1/2以下
9 H13/9/11 90.2 86.1 0.95 1/2 1/3 46 1/2以下
10 H14/7/11 165.4 149.2 0.90 1/20 1/50 336 1/10
11 H16/7/17 73.7 72.1 0.98 1/2以下 1/2 41 1/2以下
12 H16/8/6 78.8 78.8 1.0 1/2以下 1/2 20.8 1/2以下
13 H16/9/20 127.5 126.4 0.99 1/5 1/20 124 1/2
14 H16/9/30 93.8 92.1 0.98 1/3 1/5 137.0 1/2
右側の○は大小関係があてはまるもの。△は同等。●は反対の関係。

−表からの考察−

<その1>
 水色の枠は降雨ごとの2日間平均雨量と流量の超過確率を比較したものです。前述の前期降雨の多かった2降雨(赤枠)をのぞき、全て超過確率分の流量ピークが形成されていません。
<その2>
 2日間雨量(A)と1日間雨量(B)の比較では(緑枠)、2降雨を除く全てが2日間雨量の9割以上を24時間以内で降り終えています。
 また、2日間降雨と1日間降雨の確率年の比較(ピンク枠)では、ほとんどの場合1日間降雨の確率が高くなり、2日間降雨の採用がそれぞれの降雨の実際の評価を落としています。
簗川の治水計画に2日間雨量は長すぎる!のページ
<その3>
 2日雨量と1日雨量に格差があるBとFの降雨(黄枠)の場合、1日降雨の確率年のほうがより流量確率年に近く、2日降雨の評価がまるで意味をなしていません。

 また、2降雨とも降雨が2つの山に分かれ、後半のピークがより大きくなっています。(BF
 全てを一緒にして2日間降雨とするよりは、前半降雨を1日間降雨以前の雨(前期降雨)として評価する方がより明確な降雨特質を得られるといえます。


 実測降雨と比べ簗川ダム計画は非常に過大です。
 たとえ超過確率年1/100の降雨(210mm)が実際に降ったとしても780m3/sものピーク流量が起こる可能性は低く、ことによれば500m3/sさえ超えないと考えたほうがより現実的だといえないでしょうか?



ダム計画の問題点のページへ




トップへ







inserted by FC2 system