S41/5/31岩手日報特集「川は流れるQ
  岳川心も洗う輝く川〜早池峰の霊気を集めて

清く輝く″神秘の川
 岳川は霊山早池峰の川である。稗貫郡大迫町で仲居川と合流、稗貫川に生まれ変わって北上川に流れ出る。大迫はアイヌ語にいう「清く輝く水」。その名のとおり清らかな水が早池峰から急こう配の渓流に乗って大迫に運ばれる。東の閉伊川、南の猿ケ石川は、いづれも早池峰を源にする兄弟。西の岳川はその中でも最も早池峰と縁深い神秘の川″といえる。

岳の部落から名称
 大迫の町から十八`、青葉を映す岳川を眼下に県道をさかのぼると岳(たけ)の部落がある。戸数わずか十二戸だが、遠く縄文(じょうもん)時代に狩猟民族が住みついたという開発の地″。大同二年(八〇七年)田中兵部と始閣藤蔵が山頂に姫大神を祭っていらいといわれる早油蜂神社、越後の住人阿闍梨(あじゃり)円性が早池峰の別当寺として建てた妙泉寺跡などがあり、どこか荘厳なふんいき。岳川もこの岳の地名からつけられた。
 ここから上流六・五`の川原坊地内までの岳川沿いは、大小の滝が連なり、魚の滝のぼりをストップさせるという魚止滝、鐘滝、笛貫滝と並ぷ名所が目を奪う。石灰岩に大小数十個の穴があき、笛のような水音を響かせる笛貫滝は「稗貫川」の名にも関係するという。マス取り名人と美女が伝説に登場する嫁ケ渕は岳の下流にあるが、水しぶきをあげる滝の下は深い淵になって見ごたえがある。
                             
洪水にまつわる伝説
 岳川も荒れる川だった。アイオン台風では死者を出し、洪水によってできたアイオン川原″まで残っている。その昔、老人を装った化け物が、白い大理石と煮えたった食用油を、モチと酒だと早合点、頭にある穴のような口から食べて怒り狂ったという伝説は「その後七日間雨が降って洪水、化け物も流されてマタと胴が下流に流れついた」と結んでいる。「川原坊」の坊さんと化け物の話だが、洪水を後世に伝える物語りでもある

稗貫川にお嫁入り
 砂防ダムができてからは静かな川になった。昭和三十五年から村営水道に利用され、川岸に開けた水田にも恵みの水を与えている。以前は砂金も取れ、昭和の初めま一では農民の副業にもなった。
 昨年四月、岳川は稗貫川にお嫁入りした。ライバル仲居川と競って河川法上の稗貫川本系に編入されたからである。だが地元の人たちには強い愛着がある。形式上の名称は変わっても早池峰の川「岳川」の名は大迫から消えないだろう。





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