超過洪水を検証する 〜ダムがもたらす水害 ダム事務所の説明は? ダムの効果について簗川ダム事務所は以下のように説明します。(簗川ダム地元説明会資料より) |
平常時 洪水調節がされない平常時には、ダム流入分と同量が下流へ放流される。ダムに10流入した場合は10放流される。 |
洪水時 流入量が調節され放流される。 50流入した場合、放流口で30軽減され20放流される。 |
超過洪水時(ダム事務所の言い分) ダム容量が満杯になり非常用洪水吐きからの放流が加わるが、流入量100以上になることはない。 ダム流入量100に対し、放流口から30非常用洪水吐きから70放流される。 |
一見筋が通っているかのごとく見える説明ですが、ここには重要な要因が欠落しています。 説明にない「流入量と時間の関係」 この説明では、超過洪水は流入量のピークがダム調節量を上回った場合のみに発生するかのように言っていますが、流入ピークが大きくなくても洪水が長時間続けばダム容量は満杯になり、非常時放流は起こります。 |
想定しうる超過洪水 |
実際の超過洪水を検証した場合、ダム調節を上回る大きな流入ピークによってダムが一気に機能しなくなる例(の例)はこれまでほとんど見あたりません。 近年多発する超過洪水は、大概がダム計画以下の流入ピーク時に起きており、(ダム流入の総量が貯水容量を超える)のケースによるものです。 |
容量オーバーによる超過洪水の例 《その1》7月12〜13日/新潟豪雨 平成16年7月12日深夜から13日にかけ、梅雨前線の停滞により総雨量431mm(栃尾雨量観測所:気象庁)におよぶ記 録的な集中豪雨となり、新潟県管理の五十嵐川、刈谷田川他6河川において11箇所で堤防が破堤し、広い範囲で浸水被害が発生。この豪雨による新潟県及び福島県の一般被害は、死者16名、負傷者4名、住家全壊70棟、半壊5,354棟、一部損壊94棟、床上浸水2,149棟、床下浸水6,208棟(消防庁調 べ:9月10日現在)となった。 《河川局HPより》 |
最大流入量276m3/sは計画より小さかったが、ダム流入量の累積がダム容量4,45千m3を超えた。 最大流入量850m3/sは計画想定内だったが、ダム流入量の累積がダム容量7,600千m3を超えた。 |
平成11年10月28日豪雨災害 雪谷川ダム超過洪水
この災害はダムで防げなかったにも係わらず、簗川ダムの宣伝ビデオではダムの必要を訴える水害として紹介されています。 これらの水害では、ダムを造る代わりに堤防強化(多少の越流があっても全体に破堤しない)や橋脚の改良等を適切に行っていれば、被害は10分の1以下になっていたはずです。 つまり、ダムを造ったがためにそのほかの改修を怠ってしまった、言うなればダムがもたらした災害だと言えます。 |
||||||||||||||||
簗川ダムの場合は?(穴あきダムの持つ危険性) | ||||||||||||||||
とはいえ、簗川ダム計画ではのような超過洪水の可能性はかなり低いと考えられます。 その理由は、 1,ダム貯水容量が非常に過大なため、ダム計画をはるかに上回る洪水が起きなければ満杯になるまで水が貯まらない。 |
||||||||||||||||
割り増しされたダム容量 のページ参照 | ||||||||||||||||
2,基本高水流量(ダム計画の規模)が流域の大きさにそぐわないため、ダム調節がほとんど機能しない。 | ||||||||||||||||
実測流量から見た簗川ダム計画は超過確率7000年!? のページ参照 | ||||||||||||||||
観測資料のある40年間で、ダム地点(宇曽沢)で最大ダム調節流量250m3/sを上回ったことは、平成14年の台風6号の時一度だけです。このことは、大きな雨が降った場合でも大概においてダムによる調節はなされず、素通し状態で放流されることを示します。 |
||||||||||||||||
おもな降雨の宇曽沢地点ピーク流量
|
||||||||||||||||
つまり、簗川ダムを造った場合の洪水の状況は、7月12〜13日/新潟豪雨時の大谷ダムのようになるであろうと推定されます。 |
洪水時、ダム計画雨量340mm/2日をはるかに上回る400mmの雨が流入。 しかし、ピーク流入量はダム計画790m3/sを下回る585m3/sだった。 ところが、計画より大きい雨が降ったにもかかわらず、洪水総貯水量はダム貯水容量 1,375万m3に及ばず960万m3しかなく、これは刈谷田川ダム貯水容量325万m3 分の余裕があった。ダム堤の上部8mは全く意味をなさなかったことになる。 大谷ダムが穴なきダムでなく調節機能があったならば、満杯まで水をため込むことができ あるいは下流の堤防決壊は起きなかったのでは、というダムに対する疑問がわき起こっている。 |
ダム寿命50〜80年のうち、わずか1度か2度あるかないかの洪水のために、簗川ダムは造られることになります。 しかも、そのたった1〜2度のダム調節が機能した洪水でさえ、他の要因が重なれば水害を防ぐことはできません。 簗川ダムで調節しても下流は安全にならない?! ダム計画流量配分図によれば、下流基準点での最大流量は340m3/sとなり、これは下流左岸堤防を浸食させた台風6号のピーク流量(335m3/s)を上回ります。 |
|
ダムがあれば、堤防崩落は防げただろうか?のページ参照 | |
さらにこの時の水害状況を考察すれば、北上川からの逆流が洪水水位を引き上げた可能性もあり、だとすれば上流のダムで調節をしたところで下流の被害軽減にはほとんど効果がないということになります。 その反対に、この地点の堤防を強化し浸食されない堤防にすれば堤防の流下能力自体はダム計画の780m3/sを上回っているので、ダムが無くても下流での氾濫の心配は解消されます。 現在の治水の常識から立ち後れたダム事務所の説明 国土交通省が行う豪雨災害対策総合政策委員会では、費用と時間のかかるこれまでの河川整備のあり方を改め、市街地の堤防などの質的強化などに重点をおき、洪水が起きても被害がでにくい河川整備に方向を転換するべきとの提言が出されています。
つまり、国の審議会では「堤防を破堤しない構造にすることは可能だ」との前提のもとに話し合われているのです。 ところが、簗川では「堤防決壊はありうること」として流域住民に説明しています。 |
|
現在の治水のありかたから考えて、簗川ダム事務所の説明は完全に時代と逆行しています。堤防強化の技術は今日かなり進んでおり、矢板の打ち込みや薬品の注入など、約4億円で改修可能です。要は、やる気があるかどうかなのです。 新潟災害の二の舞を避けるためにも、この堤防の強化は絶対に行うべきでしょう。 |
|
ダム計画のページ |