文責m。j
<簗場・中村観測所資料から その2>
ダム計画書に見る意図的な到達時間の短縮

 図は簗川ダム計画の定数解析モデルです。基準点におけるピーク流量を算出する行程を図式化したものです。

 これによれば、簗川流域を大きく3つに分けてそれぞれのピーク流量を算出し、到達時間のずれを考慮して加算していき、最下部の基準点でどれほどのピーク流量になるかを計算します。


             (計算結果)

 図によれば簗川ダム下流の到達(遅延)時間に1時間とり、流域2に30分、他の2流域には到達時間をとっていません。
 これがそれぞれの流域の大きさ・長さに対し均等な分配でないのは明らかです。
 解析モデルと縦断図を比較すれば、解析モデルがダム地点下流を誇張し、上流部を過小評価しているのがわかります。


(注:縦断図では水位観測点間の距離を記しているため、上の解析モデルとでは数値が違います。)

河川縦断図(地質調査報告書より)

 解析モデルで見込んでいる1時間の河道(ダムサイトから北上川合流点まで)は、根田茂川最遠端までの距離の3分の1に過ぎません。

 この流域状況を無視した到達時間配分は、ダム計画策定当初から行われていたわけではありません。
 計画が進行する過程で変化していることから、そうしなければならない何らかの理由があったと思われます。


−過去と現在の比較−

 昭和56年度では流域全てに到達時間1時間を見込んでいます。

昭和56年度計画書

 この当時の計算が精度の高いものであったとは言い難く、「各流域に1時間ずつ」とは任意に入れたものと考えられます。
 ところが、その後の計画書では到達時間は短縮され、流域の状況からむしろ遠のいた時間配分になっています。

平成4年度計画書(現計画)

 ダム計画者の本意が「流域状況に基づいた正確さを求める」ことには無く、むしろ「何らかの意図を盛り込んだ計算結果を作り出す」ことにあったと推測されます。

 

−実測資料から見た時間配分は?−
 これまでの実測資料から観測所ごとのピーク流量を記録した時間を表にしました。
降雨資料一覧
観測地点(対応箇所) H12/5/12 H12/7/18 H13/7/31 H14/7/11 H16/7/17 H16/7/19 H16/9/21 H16/9/30
中村(流域1河道) 19:00 20:00 11:00 17:00 17:00 22:00 4:00 11:00
簗場(流域2河道) 21:00 22:00 13:00 18:00 20:00 23:00 5:00 14:00
宇曽沢(ダム地点) 22:00 23:00 14:00 19:00 21:00 翌0:00 6:00 15:00
葛西橋(基準点) 22:00 23:00 16:00 19:00 22:00 翌1:00 8:00 15:00
基準点ピーク(m3/s) 51.23 25 32.22 336 40.6 55.0 123 137
 黄色枠の部分は、記録上のピーク(降雨期間中最大値)ではないが流量の増減や他流域との相関からピーク時刻と判断できる時刻を記しました。
 また、水色の部分は上流と下流でピーク時刻が同じですが、河道流下ピークが到達する以前の降雨(盛岡雨量)が影響しているようです。



−表からの結果−


<その1>
 流域1・2の河道上にある中村と簗場のピーク時刻は同時ではなく、主流路長の最も長い流域2は他の流域より大きめの到達時間を配分するべき。
<その2>
 支流の合流点より2kmほど下流の宇曽沢でのピークは簗場と相関がみられ、簗場のピークからほぼ1時間後にピークを迎えている。
<その3>
 宇曽沢と葛西橋にもピークのずれがある。

 これらの結果から、ダム地点から下流に1時間の到達時間を配分するのであれば、流域2に裁定2時間、流域1にも1時間程度の到達時間を配分するのが妥当であると考えられます。



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