ムダダム立県いわて文責m。j
四十四田ダム(その2)

 去る9月30日(土)、北上川ダム統合管理事務所が主催する、ダム開放講座に参加してきました。参加することにより新たに見えてきた知見を紹介します。

四十四田ダムの目的

1〜治水上の観点〜
 四十四田ダムでは、毎秒400mまでは下流河川にそのまま水を流し、400mを越えた分を徐々にダムに貯め込みます。そして、最大流入量が毎秒1,350mに達したときに、最大放流量を毎秒700mに抑え込み下流河川で氾濫被害を起こさない計画にしています。
(パンフレットより)

 四十四田ダムの治水上の必要性を考える場合、ダム直下の盛岡市におけるダム効果と、北上川全体の統合的な面での検討が必要である。

2〜利水上の観点〜

 最大で毎秒55mの水を利用して、最大15,100kWの電力をつくり、1年間で7千万kWHの発電を行っています。これは盛岡市内の消費電力の約15%に相当する電力量です。
(パンフレットより)

 四十四田ダムは上流にあった松尾鉱山からの鉱毒水対策のため、水道水・農業用水としての利用はできない。発電が唯一の利水利用である。


3〜松尾鉱山からの鉱毒水問題〜
 松尾鉱山跡地に新中和処理施設が完成する以前は、流水に混ざった赤褐色の不純物をダムによって堰き止めるという付随的効果があり、ダムが清流化に貢献していたかのごとく認識があったが、実際は水質は酸性のままであり根本的な解決にはなっていなかった。
 現在は、その当時のヒ素が混入した堆砂層の処分が問題となっている。




<治水ダムとしての検証>
治水目的の検証1〜盛岡での治水効果は?
 北上川ダム統合管理事務所のHPには次のような記載があります。
四十四田ダムで約160棟の浸水被害を軽減!
(台風21号における四十四田ダムの洪水調節効果説明資料)
9月30日台風21号の大雨による洪水に対し、北上川五大ダムにおいて洪水調節を行い、浸水被害の軽減に効果を発揮しました。
 特に四十四田ダムにおいては、西根町三ツ森観測所で3時間雨量96mm、流域平均総雨量131mmの大雨により昭和43年のダム完成以来、最大の流入量となりました。
 四十四田ダムにおいては、最大流入量約960m3/sに対し、放流量を500m3/sに抑えることにより、下流盛岡市街地の浸水被害を軽減しました。
 今回の洪水時において浸水の危険があった開運橋下流左岸について試算すると、ダムがない場合には約1.4ha、約160戸の浸水被害が想定されることから、四十四田ダムが大きな効果を発揮したことがわかりました。
http://www.thr.mlit.go.jp/kitakato/index.html

 ダム開放講座での説明によれば、この時の盛岡市中心部のダムがないと仮定した推定流量は1079m3/sでした。

盛岡市中心部最高水位時の様子

ダムがない場合の予想水位


 ところが、河川改修を担当する「岩手河川国道事務所」にあらかじめ問い合わせたところ、この周辺の流下能力は1100m3/s程度はあるというとのことでした。
 つまり、推測されたダムなし最大流量1079m3/sでは浸水被害が起こらなかった可能性があります。

 意見交換の際に、その点について質問しましたが、「盛岡市内開運橋付近で1.8m、舘坂橋付近で1.6mの浸水という計算だ」という回答一点張りで、その付近の流下能力などは把握していないようでした。
   
 この図は、実際の北上川と比べ川幅が狭いため、浸水の危険性が誇張されているように思われます。


今後のダムの耐用年数を考慮すれば
 この洪水の際、護岸が流出した箇所がいくつかあり、ダムがあっても完全に災害を無くすことは不可能でした。
 盛岡市内の流下能力だけで、四十四田ダムがなくても対応可能であれば、今後「ダム寿命を延ばす」試みはあまり効果的ではないといえます。
 ダムの耐久性に問題が生じた場合には、この点について詳細に検討するべきでしょう。


四十四田ダムの提体から漏水が・・・
 配付された資料には、ダム堤から漏水している写真が掲載されていました。
 事務所の説明では、今すぐに問題が生じる恐れはないとのことですが、今後10年20年経過したときに、漏水状況が悪化している場合、無理にダムを存続させるよりも、ダムに頼らない治水すなわち、ダムを撤去する可能性も議論するべきではないでしょうか。
 平成16年9月3日台風21号により
壊れた護岸復旧工事の案内板

  
 ダム堤の中には建設時に見込んだいる漏水対策の装置が施してある。ダムに漏水は付き物だというが、老朽化の影は徐々に見えてきているのでは?


治水目的の検証2〜北上川を総合的に見て
 下図は北上川ダム統合管理事務所のHPにある、北上川全体の流量配分図です。


 図によれば、上流の四十四田ダムから一関遊水地まで洪水が下降する際に、支流が合流するに連れて徐々に流量が増加しているという想定で流量配分がなされています。

 ところが、実際の洪水では、それぞれの支流ピークがまちまちなため、想定どおりにはなっていません。
 これまでの主要洪水のうちから、平成2年洪水と平成14年洪水(台風6号)の各観測点流量を見てみます。

    狐禅寺以降の流量が緩やかなのは一関遊水地の影響だと思われる。
 
 黒い点はそれぞれの流量ピークを表します。一目でわかるように、どの観測点でもピーク時刻は大体同じ時刻であり、順序よくそれぞれのピークが重なるわけではありません。
 つまり、明治橋からの上流ピークが流下して男山・大曲橋などに到達する頃には、その地点のピークは過ぎ去っていることになります。

四十四田ダムのピークカット量650m3/sはさほど意味をなさない。
 上流と下流のピークが重ならないわけですから、上流ダムの洪水調節が下流の洪水調節にならないのは明白です。
 
治水としての結論
 以上のことから、四十四田ダムの洪水調節が、下流直下である盛岡市においても、北上川を総合的に見た場合でも、効果が絶大であるというわけではありません。
 まるっきりなくてもよいとは言いませんが、今後もし、ダム堤の強度や堆砂容量の問題を論じる機会には、「耐久限度が過ぎたらダムがなくても被害を最小限にする治水」を心がけるという選択もあるのではないでしょうか。




<発電ダムとしての検証>

洪水対策として夏場は制限
 四十四田ダムは洪水対策と発電の2つの目的を兼ねた多目的ダムです。ですから、夏場は台風による洪水を考慮し、水位を大幅に引き下げます。
 このことは、夏場の最も発電需要があるときに最大能力が発揮できないという矛盾を抱えています。
    
      緑色の部分が発電用。発電量は4〜5000kwに減少

利水量制限だけでなく渇水の危険も
 昭和48年の大渇水の時、四十四田ダムの発電量は3,000kwだったそうです。岩手県全体の必要発電量は現在110万kwとのことです。
 「盛岡市内の消費電力の約15%」という説明が、条件付であるのはいうまでもありません。

更新期間が10〜20年
 せっかく大金をつぎ込んで造った発電所ですから、たとえ能力的にさほど大きくないとしても、使えるうちはできるだけ使いたいものです。
 次の更新期には、あとどれくらい使えるのか、それ以上使うにはどれくらい費用がかさむのかなどといった、便益計算を綿密に行うべきでしょう。

発電専用のダムにすれば?
 北上川の流下能力は、ダム完成時より格段に良くなっています。これからの環境問題などを考えたときに、せっかくある発電能力を可能な限り引き出す利用法を考え、洪水調節分を発電に振り替えることも検討してはどうなのでしょうか。
 もちろん最初からすっかり洪水対策分を無くしてしまうのは不安ですから、徐々にそのような方法を模索してみてはどうなのでしょうか。


<いつかは考えなければならない堆砂問題>
ダム寿命はそれほど長くない
 ダム開放講座に参加して感じたのは、四十四田ダムは永久に存在するダムではないということです。
 いつか必ずダム撤去を話し合うときが来るでしょう。それが10年先になるか20年先になるかはわかりませんが、最も費用がかからない問題の解決法であるという気がします。

むりやりダムを存続させたら・・・
 ダム湖一帯に広がるヒ素を含む堆砂を除去しなければなりませんが、下流に流出しないようにうまく除去できるでしょうか?
 土砂対策用にさらに上流に貯砂ダムを建設するのは、費用がかさみ、国も県もそんなお金を持っていません。                  →前のページ参照
   
  ダム湖内の堆砂状況とヒ素含有分。赤い部分が最もヒ素が濃い層。青色が現在のダム湖底。

私の提案

 現在ある発電能力をなるべく有効に利用し、更新費用と比較しながらなるべく長く利用する。
 発電施設の老朽化やダム堤の限界に従い、ダム撤去を行い、ダム湖に堆積した土砂はそのまま固定して手を加えない。

 講座の日、ダムの直下には海から遡上してきたサケが登り口を見つけられずにいました。一緒に参加した方々は、珍しそうに川面を探していましたが、このままでは、サケたちの長い旅は報われず、この場所で朽ち果てる運命です。
 もしも、このダムがなくなれば、サケは遡上を遮られることもなくなり、養殖などに頼らない自然のサイクルが蘇ることもあるのではないでしょうか。
 四十四田ダムの撤去は、今すぐしなければならないことではありませんが、いつか必ず実現してほしいものです。


四十四田ダムの場合

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