ムダダム立県いわて  文責m.j

その1  綱取ダムの場合

利水について 
(治水に後述)

今だに発揮されないダム調節効果

 綱取ダムは昭和62年に竣工し、現在23年が経過しています。ところが、ダム調節かが必要なほどの洪水はこれまで一度も観測されておらず、この23年間1度も役に立っていません。

 計画書によれば、ダムが洪水調節を開始する流量は130m/秒を越えた時点ですが、23年間で最も大きいダム流入量でさえ87m/秒(平成14年7月11日、岩手県河川課に確認)であり、河道だけで十分対応できる流量です。

ダム流入量 平成14年7月11日(実績最大の流入量) 単位:(m/s

H14/7/11 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 0:00
流入量 70.8 77.0 86.3 86.9 87.9 84.8 79.6 73.3 67.9 62.2 56.7 53.2 48.8 47.1 43.1 40.3
放流量 45.9 74.9 87.3 87.9 87.9 87.9 85.8 82.7 82.4 82.0 81.4 80.7 52.6 49.9 47.8 44.1
薬師神社前 50.2 79.6 92.5 93.2 93.3 93.0 90.6 87.1 86.5 85.8 84.9 84.0 55.6 52.8 50.5 46.5
山岸 191 214 223 220 214 208 201 194 187 183 176 174 151 145 135 131

*薬師神社前は綱取ダム下流直近の水位観測点 山岸(米内川との合流以後の地点)の観測は国交省による


ダム流入量 平成14年8月12日(実績第2位の流入量) 単位:(m/s

H14/8/12 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 20:00 21:00
流入量 76.46 82.95 82.97 85.42 85.8 81.97 78.99 72.07 67.69 62.66 58.04 53.12 50.02 46.84
放流量 73.6 82 82.97 83.51 84.84 84.82 84.69 79.67 75.29 65.51 63.74 63.57 63.33 63
薬師神社前 78.2 87.0 88.0 88.7 90.0 89.8 89.4 84.0 79.4 69.3 67.2 66.8 66.3 65.8



実測流量と関係のない計画策定
 下図は中津川の流量配分図です。安全確率年を150年とし、150年に1度の降雨では、綱取ダム地点には毎秒740mの流量が流下しダムで130mにまでピークを調節する計画になっています。

 しかし、これらの流量配分は実績流量と全く関係がなく、言ってみれば事業者の都合で大きさが決められたようなものです。

  
第4章 洪水調節計画(計画書より)
   中津川下流改修計画は岩手工事事務所でQ=800m/secとしての第1次改修が一部進められたが、完成にいたっていない。
   第2次改修はQ=1200m/secとして計画を持っており、北上川の流量配分はこれによって決められているためQ=1200m/secにあわせた計画とする。
   綱取ダムの確率雨量は都市河川という事から1/150年確率を採用しダムサイドでQ=740m/secを610m/secカットしQ=130m/secを放流する。
   基準点ではQ=1,790m/secをQ=1200m/secとする。

 下線部分では岩手工事事務所が1,200m/sの計画を持っているから県もこれに合わせたという説明をしており、流量計算も1,200m/sを前提にしているという全く恣意的なものです。
 こうして中津川では千年・万年経っても起こりそうにない過大な流量が設定されました。


実際の中津川流量はどれくらい?
 下表は中津川と簗川(小屋野地点)の流量比較です。(綱取ダム工事誌より)これによれば、中津川は簗川の3分の1程度もしくはそれ以下しか流れていません。

 おそらく中津川の治水はダムを必要とするほど困難なものではなかったことでしょう。


豊水量
(m/S)
平水量
(m/S)
低水量
(m/S)
渇水量
(m/S)
年最小
(m/S)
年平均流量
(m/S)
年合計
(mx10×3乗)
中津川 簗 川 中津川 簗 川 中津川 簗 川 中津川 簗 川 中津川 簗 川 中津川 簗 川 中津川 簗 川
36 1.92 1.379 1.143 0.736 0.566 1.703 54,000
37 1.638 1.143 1.054 0.736 1.548 49,000
38 1.638 0.928 0.865 0.365 1.397 44,000
39 1.143 3.94 0.736 2.07 0.418 1.55 0 0.92 0 0.89 1.035 3.48 32,700 110,000
40 1.143 3.58 0.772 2.34 0.566 1.67 0.001 1.2 0 1.1 1.219 3.69 38,500 116,000
41 1.532 5.74 0.772 3.12 0.418 1.99 0.293 1.53 0.209 1.32 1.301 5.03 41,000 158,000
42 0.772 3.61 0.418 2.12 0.293 1.42 0 1.04 0 0.96 0.691 3.36 21,800 106,000
43 0.81 4.14 0.418 2.39 0.293 1.64 0.228 1.22 0 1.13 0.854 3.82 26,900 121,000
44 0.772 3.83 0.475 2.36 0.293 1.63 0.109 1.23 0.083 1.13 0.886 3.81 27,900 120,000
45 0.598 3.37 0.316 1.66 0.19 1.17 0.083 0.83 0.071 0.73 0.67 2.95 21,100 93,000
46 0.888 3.91 0.566 2.53 0.34 1.66 0.209 1.05 0.172 0.94 0.895 3.59 28,300 113,000

*簗川の小屋野地点とは現在基準点になっている葛西橋より8km上流

 
キャサリン台風の際、中津川の穏やかさを記した岩手日報記事
おとなしかった中津川

【実測最大降雨の規模は?】
 ダム地点観測最大であった平成14年7月降雨(台風6号)はダム計画では1/30確率規模に相当しますが、流量は計画とケタ違いに乖離しています。いったいどのような計算をすればこのような大きなずれが生じるのでしょうか。(と言うか、計算してるんでしょうか?(-_-;))

《綱取ダム計画の確率年ごとの雨量と流量》
1/200 綱取ダム計画
1/150
1/100 1/80 1/50 1/30 1/20 H14/7
降雨
ダム地点雨量 200 190 185 175 165 155 86 155
柿ノ木平(合流後)流量 1855 1810 1716 1623 1530 1437 253
ダム地点流量 767 740 709 671 632 594 87
*平成14年7月降雨 全流域雨量158mm ダム地点雨量155mm

 

計画雨量の算出も疑問が
 それでは、平成14年7月降雨よりも大きい降雨であれば大きな流量が観測されるでしょうか。たぶん、その可能性も非常に低いでしょう。
 なぜなら、計画降雨190mm/2日がすでに過大な数値であるからです。(計画降雨190mm/2日とは、150年に1度2日間で190mmを越える降雨があるということを表す。)

 綱取ダム計画書では、大正5年から昭和45年までの55年間で150個の降雨を採集し、それを統計処理して計画降雨を導き出していますが、150個の中で最高値は142mmであり、正確な統計処理を行ったなら190mmという数値にはならないはずです。

単純ミスかゴマカシか?降雨収集の謎
 綱取ダム計画書から、中津川流域2日間雨量の部分を見ると、6ページ目の昭和40年9月16日降雨の全流域雨量が183.3mmとなっていますが、他の流域雨量から考えても、これは記載ミスです。(盛岡気象台のデータでも確認済み)
 
 ところが、この記載ミスをそのまま統計処理に使用したとすれば確率年1/150降雨はほぼ190mmぐらいに落ち着くと思われます。

 つまり、綱取ダム計画は知ってか知らずか、この記載ミスが計画のベースになっているのです。(-_-;)

真の1/150降雨の大きさは?
 2日間雨量155mmの平成14年7月降雨は、大正5年から現在までの90年間で中津川流域で観測された最大の降雨です。
 これを越える降雨は100年〜200年経ってもいっこうに降らない事もありえます。
  
中津川流域2日間雨量
《収集した降雨のうちわけ(全流域雨量)》
2日間雨量 150mm
以上
140mm
以上
140〜130mm 130〜120mm 120〜110mm 110mm以下
観測回数 134
 
 
結論
 中津川の流量調節に綱取ダムが機能したことは今まで一度もなく、今後も可能性は非常に低い。(あるいは起こりえない)(^_^;)

 ダム撤去や維持費、環境への負担を考えると、これほどばかげた負の遺産はないと言っても過言ではないでしょう。
 綱取ダムができて喜んでいるのは、ブラックバス釣りの愛好家だけかも知れませんね。
 




利水の必要性
 綱取ダムの利水には大きく3つの役割があります。
事業の概要
(1)管理用発電計画
(2)流水の正常な機能の維持
(3)都市用水の確保

 このうち、
(1)管理用発電計画というのは、ダムの必要電気を水力で起こそうというもので、対外的な利益には全くなっていません。
 ちなみに、綱取ダムの発電量200kwは、簗川ダムが以前計画していた発電量2000kwの10分の1です。

(2)流水の正常な機能の維持 これは渇水期などの流量の少ない期間をダム調節で補おうというものですが、以前行った中津川(綱取ダム)と稗貫川(早池峰ダム)の2流域で聞き取り調査では流量が一定になることは自然環境にとって良いことは一つも無く、川魚が減る一番大きな原因になっています。
 現実には「流水の正常な機能の維持」は、ダム規模を大きくするための口実にしかなっておらず、これは簗川ダム計画でも問題になっています。
中津川・稗貫川における住民聞き取り調査結果
 
(3)都市用水の確保では、中津川では新庄浄水場が取水していますが、綱取ダムからの直接取水ではありません。
 取水口があるのは米内川との合流点下流であり、綱取ダムで無理に流量調節をしなくても、極端に川の水が不足するということはないでしょう。
       
 また、新庄浄水場自体にも、川の水が少ない時に無理に取水しなくても良い機能(配水池)が備わっていますので、この理由もダム擁護のためにむりやり付け足したものといっても良いでしょう。
この問題は、盛南開発地区への対応も簗川ダムなしで十分可能ですのページで詳しく述べていますのでそちらをご覧下さい。
 
利水も全く要らない
 このように、中津川の水をダムに貯水する事によるメリットは全くなく、今後はむしろ、ダム湖の富栄養化によるデメリットが今後いっそう目立ってくるでしょう。
値上げ続く水道料金〜設備更新やダム建設負担が要因岩手日報04/6/6
ダムの富栄養化対策水質アップに高次処理 県内の浄水場 岩手日報H13/11/26

 全国のダムを調べると、ダム建設から3〜40年経過したあたりから、ダム貯水池にアオコが発生するなどの報告が増え始めます。アオコは人体にとって有毒だという研究結果もあります。

 綱取ダムは現在にとって無駄なだけでなく、将来にとって多大な損失のもとでもあるのです。(-_-)


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